つくろう、島の未来

2018年12月11日 火曜日

島暮らしを選び、島に仕事を持ち込んだ「在島ワーカー」とはどんな人か? 7つの島に暮らす在島ワーカーに、仕事や暮らしについて聞きました。取材はすべてZOOMやSkypeなどのビデオカンファレンス(テレビ電話)を使用しました。『季刊リトケイ』25号特集「仕事はネットで。暮らしは島で。島の新しい働き方 在島WORK」連動記事です。

働き方、生き方を変えるために屋久島へ移住

「東京にいた時から人に会わずに納品が完了する仕事だったので」。ウェブサイトやグラフィックのデザイン業務を統括するアートディレクター兼デザイナーとして活動する田宮光さんは、それまでの働き方や生き方を変えるため、2012年に屋久島(やくしま|鹿児島)にやってきた。

九州の最高峰・宮之浦岳(1,936m)を中心に、樹齢4,000年以上と推定される縄文杉が鎮座する太古の森が広がる屋久島は、日本で初めて世界自然遺産に登録された島でもある。

移住して6年目となる田宮さんは「屋久島は自然の存在が圧倒的。気象も気候も表情豊かで、自然の中で暮らさせてもらっていることや、自分たちが自然の一部であることを感じながら暮らせることは、自分にとって大きいです」と話す。

東京では13年間、ウェブデザインやグラフィックデザインの制作会社を経営し、自らもディレクター兼デザイナーとして昼夜関係なく働いていた。

大きな仕事も受けていたが、代理店やメールを介して仕事が成り立つため、発注主に会わずに業務が完了する日々。「誰のために、何をやっているのか。肌で感じられなかった」という状況に疲弊し、デザインの仕事も辞めてしまおうと考え、働き方や生き方を見直すために移住を考えるようになった。

もともとリモートワークなら仕事はそのまま持ち込める

その後、田宮さんは移住先を探す旅で最初に訪れた屋久島に惹かれ、ハローワークを覗いてみると屋久島町が新規ウェブサイトを立ち上げるための人材募集を行なっていた。

辞めようとさえ考えていた得意分野の求人に巡り会い、応募した田宮さんは2年契約で屋久島町のウェブサイト制作業務に着任。東京で引き受けていた仕事はそのまま島に持ち込み、リモートワークで継続した。

「僕のような仕事をしている人はもともとリモートワークの人も多い。東京にいたときから北海道のプログラマーや沖縄のイラストレーターに仕事を発注していましたし、東京都内の仕事でさえほとんど会わずに仕事をしていたので、今までのスタイルをそのまま持ち込めるわけです」(田宮さん)。

島でのリモートワークに難点を挙げるなら「ネット回線の遅さ」。光回線が引かれておらず、ADSLも不安定なので、ポケットWi-Fiのほうが速かったのだ。

電気自動車とポケットWi-Fiがあれば停電時も仕事可能

仕事場は自宅。商品撮影やモデル撮影も自宅スタジオで行う

ただし、屋久島町では光回線の導入事業化に向けて、関係機関と協議中であるため、「もう少しするとリモートワークしやすくなるのでは」と期待する。ちなみに「ひと月に35日雨が降る」といわれる屋久島は、島内電力の99%が水力発電で賄われている。

電気さえも大自然の恵ともいえる屋久島だが、地域によっては悪天候や発電系統のトラブルで停電が起こることも少なくない。そんな時、田宮さんは「愛車の電気自動車から給電して、ノートパソコンとポケットWi-Fiを動かせば仕事は続けられる」と工夫する。

2年間の契約終了後はフリーランスとなり、引き続き東京や他地域にいるクライアントやクリエイターとやりとりしながら、数ヶ国語対応のウェブサイトのリニューアル案件や、雑誌を立ち上げるディレクション業務にもあたっているが、島暮らしが長くなるにつれ、島内のデザインの仕事も増えてきた。

「島外の仕事だけだと『あいつは何者だ?』『何やって暮らしているんだ?』となる。そこで、島で開かれるお祭りのポスターをつくったりすると『あ、お祭りのポスターの人ね』と認識してもらえるようになりました」という田宮さん。

島はマーケットも小さく人間も少ないので『誰のために』が実感できる

「島で仕事をつくることも大事」と考る田宮さん。お土産品のパッケージデザインなどを手がけている

島ではリモートワークだけじゃなく、できるだけ島の仕事を受けるようにしている。「都会の仕事ばかりやっていたら何のために移住したかわからない。都会の仕事は予算も多いけど、島にいながら都会の仕事だけをしていると、都会で働いているのとそんなに変わらなくなってしまうんです」(田宮さん)。

自分自身を大自然の一部と感じながら屋久島で生活する田宮さんは、東京での暮らしを「バーチャルのような世界」と振り返る。「東京には人間がつくったものしかない。大勢の人が暮らすための仕組みがあって便利なんですけど、こっちにくると『地球に暮らしているんだ』ということが実感できる。自分たちで農作物をつくったり、釣ったり獲ったりしたものを分けてもらったりするので、島の恵みを通して自然との結びつきを感じることができるんです」(田宮さん)。

田宮さんの島暮らしは、目覚まし時計を使わず起きる朝に始まり、週2日は友達家族と始めた米づくりの「田んぼ当番」が回ってくる。仕事の合間に田んぼを見回り、雑草を抜き、夜は自宅や友達の家に一品持ち寄りで集まる「家飲み」を楽しむ生活には、リアルな喜びがあふれている。

「島はマーケットも小さく人間も少ないので『誰のために』が実感できるんです。島でデザインの仕事をするとクライアントにも直に会えるので、喜んでもらえる顔が見れ、島の経済に貢献できている実感も持てました」。都会で見失った仕事のやりがいを、田宮さんは屋久島で取り戻した。


ある1日のスケジュール/ 08:00 起床・朝食 09:00 仕事(メール対応など) 13:00 昼食 14:00 仕事(打ち合わせや撮影が入れば外出) 17:00 田んぼ当番 18:30 夕日や滝を見にいく 19:00 夕食・お酒・猫と戯れる 21:00 仕事(残業がある場合) 02:00 就寝

島データ/ 屋久島(鹿児島県屋久島町) 人口12,546人(H30.6月時点) 面積504.29km²

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』25号「仕事はネットで暮らしは島で 在島WORK」特集連動記事

『季刊ritokei(リトケイ)』25号「「仕事はネットで暮らしは島で 在島WORK」特集掲載記事をはじめ、紙面にて紹介した記事のノーカット版等を、有人離島専門ウェブメディア『離島経済新聞』にて公開しています。

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