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【島Books&Culture】日常を奪われた母と子の逃避行『青空と逃げる』|島をより深く味わう1冊

  • 『青空と逃げる』
    辻村深月・著
    2018年3月/中央公論新社
    1,600円+税

突然日常を奪われた母と子の逃避行 助け合い未来を切り開く一家の再生物語

ずっと続くと思っていた日常が、突然奪われたとき── 変化を受け入れるのはそう簡単なことではない。まるで別の世界に放り出されたかのような孤独の中で、未来を見ることを忘れ、今を生きることに必死になる。一人ではない、そんな当たり前のことに気づくのにも時間がかかる。

父親が関係したある事件を発端に、追われるように家を出た母・早苗と小学5年生の息子・力。見知らぬ土地を点々とする生活に様々な不安や葛藤を抱えながらも、各地で出会う人々の温かさに触れながら共に成長していく……。『かがみの孤城』で2018年本屋大賞を受賞した、辻村深月ならではの機微な心理描写が活きたロードノベルだ。

夏の四万十に始まり兵庫県の島・家島、別府、そして仙台へ。行く先々では、街や自然の美しい情景が丁寧に描かれている。四万十川の穏やかな波間に漂う小舟、砂浜の向こうに見渡す限り広がる青い海、夏の遠い記憶に触れるような生き生きとした情景が目に浮かぶ。タイトルにもある通り「青空」はひとつの象徴として、物語の中に散りばめられている。そのため、逃亡劇の中でも読み終えて頭に浮かぶのは、青い空と海の鮮やかなイメージだ。明るい未来を予感させる、そんな仕掛けが辻村作品らしくて清々しい。

そして物語は、主人公の早苗と力、それぞれの視点から紡がれていく。同じ場面が異なる角度から描かれることで、思いが交差する瞬間を感じ取れ、2人の思いがよりいっそう強く感じられる。

特に注目したいのは、力の心情の揺れ動きだ。親と対等に意思疎通ができるようになった微妙な年頃の子どもは、表には出さずとも母の表情や気配を敏感に感じ取っている。生活を支えようと懸命に働く母の横で、子どもながらに何ができるのかを考え、自分の意思で行動する。守られているだけではなく大切な人を守りたいと思う強さを身につけていく、そのたくましく成長していく姿も見どころだ。

空はどんな場所ともつながっていて、みんな同じ空の下にいる──。そう思って空を見上げれば、どんなに辛く心細くても、大切な場所や人を思うやさしい気持ちがあふれ出す。早苗もまた、家族というものの存在の大きさに気づき救われていく。“逃げる”というのも、時には真剣に“向き合う”ために必要な時間なのだ。家族とは何か、親子の絆とは何か、2人がたどり着いた景色をぜひ共に見てもらいたい。

(文・北坊あいり)

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