つくろう、島の未来

2018年11月18日 日曜日

「もっとエネルギーのことを考えてもいいんじゃないか」。

宮古島(みやこじま|沖縄)で生まれ育った島人たちはある時、離島ならではの問題意識に端を発し、エネルギーについて考えをめぐらせた。

そして今、50年前は馬車が走っていた宮古島で、水素を燃料にした燃料電池自動車を走らせている。

この背景に何があるのか。

水素を製造・貯蔵・充填するスマート水素ステーション(SHS)と燃料電池自動車「クラリティ FUEL CELL」、外部給電器「Power Exporter 9000」の導入に携わった宮古島の4企業と本田技研工業の担当者に話を聞いた。

※この記事は『季刊ritokei』24号(2018年5月発行号)掲載記事になります。

クラリティは水だけを排出する究極のクリーン性能。5人乗りで全国メーカー希望小売価格は7,660,000円(リース専用)。

「化石燃料の限界」を見据え 再生可能エネルギーを推進

沖縄本島から約300キロメートルに位置する宮古島には、純白のビーチにエメラルドブルーが輝く美しい海を観に、年間60万人もの観光客が訪れている。この美しい環境を守るため、2008年に宮古島市は「エコアイランド宣言」を発布。人口比率では日本一と呼ばれるほど高い電気自動車(以下、EV)の普及率を誇っている。

宮古島で初めてEVを導入した宮古ビル管理を皮切りに、宮古空港ターミナル、大和電工、沖総合設備の各社は社用車としてEVを積極導入してきた。その背景について、宮古空港ターミナルの下地智さんはエネルギーを輸入するほかない離島での「化石燃料の限界」に対する共通の危機感を挙げる。

「私たちは化石燃料をつかった電気料金を払っていますが、平行して国が推進している再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)も払っています。法人負担は当初3%でしたが、気がつけば1割負担している状況です」(下地さん)。

宮古空港ターミナル株式会社 総務部 総務部長 下地智(しもじ・さとる)さん

再エネ賦課金は、再エネにより発電された電気を電力会社が買収する再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」の財源とされ、毎月の電気料金に上乗せされ消費者がそれぞれ負担している。

太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスという自然由来のエネルギーを広めることで化石燃料への依存を減らし、エネルギーの自給率を上げることが目的だが、消費者の負担が少なくないため、下地さんは「再エネが使う人にとって負担の少ないものになっていけば」と展望。2016年には、宮古空港の貨物ターミナルに太陽光パネルと蓄電池を設置し、さんさんと輝く太陽の光からエネルギーをつくり、ターミナル内の照明や空調に活用しながら地産地消のエネルギー自給を叶えてきた。

年間50万の電気代を浮かす 余剰電力の利活用実験に成功

ただ、悩ましいことにこの裏側では「余剰電力」も発生していた。宮古空港の太陽光パネルは、電力会社の送電網につながらない「オフグリッド」と呼ばれる自給型。そのため、発生する余剰電力は固定価格買取制度による売電もできず、土に捨てるほかなかったのだ。

「余剰電力を有効活用できないか」。空港の設備管理を担当していた沖総合設備の宮里明達さんは考え、空港の余剰電力を活用する実験をはじめた。「空港の余剰電力をEVに充電して会社で使う実験をしました。それがうまくいったので、社員にも電気を家に持って帰ってもらい、使ってもらったんです」(明達さん)。

沖総合設備株式会社 代表取締役 宮里明達(みやさと・めいたつ)さん

アパートや戸建てなど、社員の自宅にV2H(※)を設置してオフグリッド化し、就業時間中に充電したEVで帰宅してもらう。翌朝、出社するまでの自宅の電気が余剰電力だけでまかなえるかの実験だった。「実験の間に台風が来て停電も起こりましたが、オフグリッドなので支障もなく電気が使え、実験は成功しました」(明達さん)。

※V2H……「Vehicle to Home」の略。車両に蓄えた電気を家で使う仕組み。

停電時に問題なく電気が使えたことはもちろん、この実験では、ひと家庭あたり30万から50万円の電気料金削減にも成功していた。沖縄県の平均所得は200万台であるため、相当のインパクトである。「会社では簡単に給料を上げられませんが、エネルギーならどうせ余剰が出ているのでどうぞと言えるんです」(明達さん)。

土に捨てる電気を水素に Hondaの提案に可能性を見る

外部給電機能を備えた車両の電気を家庭用電源に変換できるPower Exporter9000。非常時にはクラリティから9キロワットの電力を供給できる。

土に捨てていた電気で、従業員はもちろん、島人の暮らしを豊かにできるかもしれない。そしてこの可能性を広げようと考えた時、島人たちの目に止まったのが「水素」を軸に据えたHondaの提案だった。

2015年の東京モーターショーでHondaは、スマート水素ステーション(以下、SHS)と燃料電池自動車「クラリティ FUEL CELL」、外部給電器「Power Exporter 9000」を組み合わせた水素エネルギーによるエネルギーの自立モデルを提案していた。

このモデルを活用すれば、宮古島に照りつける太陽から生まれた電気と、命の水として大事にされてきた島の地下水を活用した100%自然エネルギー由来の水素を生成し、貯めておくことができる。そして水素から電気を取り出し、車を走らせ、家庭の灯りをともすことができるのだ。「EVは多くの電気を貯められませんが、水素であれば貯められる。だからSHSが有効と感じました」(明達さん)。

SHSで水素をつくり、クラリティで水素を使い、Power Exporter 9000でつながる水素社会のコンセプトを、Hondaは「つくる・つかう・つながる」として掲げている。このコンセプトに可能性を見つけた彼らはHondaの門戸を叩くも、その扉は思いの外、重たかった。本田技研工業の中川さんは当時を振り返る。「車ってどこでも走れるのが一般的な印象で、SHSも車用のスタンドなのでどこにでも置ける印象を持たれると思います。しかしながら、水素の技術は世の中に出始めたばかりで、導入にあたっての課題も少しづつ解決しながら広めているのが実情だったんです」。

本田技研工業株式会社 ビジネス開発統括部 エネルギービジネス開発部 エネルギーマネージメント課技術主任 中川尊基(なかがわ・たかき)さん

子どもたちに本物を見せたい 導入の壁をクリアする熱意

宮古空港に隣接した貨物ターミナルに設置されたSHS。強風に耐える建屋や除塩フィルター室は島人の知恵と工夫の結晶。

そんな時に舞い込んだ島からのオファー。潮風が吹き込み、台風も襲来する島にSHSを導入するには数々の課題が立ちはだかり、宮古島側の施工担当となった大和電工の宮里敏彦さんは毎月東京へ通い、協議を重ねることとなった。「ひとつクリアするとまた次の課題がでてきて、本当に導入できるのかと思っていました」という敏彦さんは額に汗しながら、知恵を振り絞っていた。

大和電工株式会社 代表取締役社長 宮里敏彦(みやさと・としひこ)さん

そこで中川さんは島の熱意に答えるべく、Hondaの和光本社で、SHSの見学や技術を解説する見学会を開いた。

Hondaの和光本社はもともと初代スーパーカブの量産工場。Hondaの社員にとっては本田宗一郎が創業した当時の聖地でもある。そんな新しい技術の芽が吹き出す機能を持った和光本社での見学会に、敏彦さんらは「島の子どもたちに本物を見せたい」と、子どもたちを連れ立ってやってきた。

そして後日、中川さんのもとに参加した子どもたちが書いたお礼の手紙が届く。そこに書かれていたのは「Hondaの研究は私たちの未来にプレゼントを届けてくれる。ありがとうございます」というメッセージ。この言葉に中川さんは大きく心を揺り動かされ、宮古島にSHSが導入できるよう、関係各所の調整に奔走した。

その後、風速80メートルの風に耐えるブロック造りのSHS専用の建屋や、塩害に対応する除塩フィルター室の設置など、島の知恵を結集させた結果、ついにSHSの導入が可能となり、2017年7月に宮古空港へSHSが設置され、クラリティ、Power Exporter9000とともに稼働を開始した。

車は走るだけのものじゃない つくる・つかう・つながる可能性

宮古島に走る3台のクラリティ。1回あたりの水素充填時間は3分で航続距離は約750キロメートル。ガソリン車並みの長さを誇る。

今年4月には大和電工と宮古ビル管理もクラリティを導入し、敏彦さん自身もオーナーとなった。「沖縄の海はきれいだとテレビで見て知っていても、実際に本物をみたときの感動は違いますよね。そんな感動を子どもたちに理解してもらえるんだったら、お金がかかっても導入したいと思ったんです」と敏彦さん。化石燃料に依存しないエネルギーのありかたを考えることも、無理難題に立ち向かうことも、彼らにとっては、ひとりの大人として、島の子どもたちに明るい未来をつくる動きにほかならないのだ。

もう一方、クラリティを導入した宮古ビル管理では、これまでも清掃やセキュリティなどの巡回業務にEVを活用してきた。「巡回してない間に充電しておけば1日に60~70キロメートル走ります。それを24時間やっているので効率はよいし、CO2も出さない。けれど、『電気を取り出す』ということはできなかったんです」という宮古ビル管理の根路銘さんが所有するクラリティには、Power Exporter9000が積まれてあった。「エクスポーターで電気を取り出すことができれば、災害のときにクラリティの電気が使えます」。

有限会社宮古ビル管理 代表取締役社長 根路銘康文(ねろめ・やすふみ)さん

台風の常襲地帯である宮古島では、電線が切れ、復旧までに1週間かかる地域もある。時にはスーパーや商店の冷凍冷蔵品がまるごと廃棄になることもあるが、一般家庭で約1週間分の電力を貯める力を持つクラリティとPower Exporter9000があれば、冷凍冷蔵品を守ることができる。

使い方次第で、島の暮らしにも、産業にも大きく貢献できるクラリティを前に「車は走るだけのものじゃないよ、それをどう使うかだよと。ということをもっと分かってもらいたいですね」と敏彦さんは語る。

よりよく普及していけば 未来はもっと明るくなる

地域の未来を見据え、新技術の導入を実行するには「仲間の存在が大事」と中川さん。

世間には水素を軸にした新技術は「早い」という声もある。しかし、「ぼくらが子どもの頃は馬車が走っていました」という宮古島に、半世紀足らずでクラリティが走り出した変化をどうみるか。離島地域ならではの危機意識から導入を決意した彼らだが、島が日本の縮図であるなら、彼らの視線の先に島国の未来も見えてくる。

下地さんは言う。「今後も余剰電力は広い範囲で出てきます。それを水素にして貯め、クラリティに充電して走っていれば、通常時は各家庭で電気を使い、非常時は災害のあった場所で災害支援ができる。地産地消のエネルギーはまだまだコストはかかるけど、よりよく広く普及してくれれば、明るい未来もあるのかな」。

化石燃料に頼った暮らしから、ゆるやかにはじまったエネルギーの新潮流。新しい動きには国や自治体の制度が追いつかないケースも少なくないが、それでも新たな流れに乗る彼らを見て中川さんは、「まるで久松五勇士(※)みたいですね」と言い、「今回のことで、仲間と一緒にやっていくというのが大事なことなのかなと思いました」と語った。宮古島に広がる青空が未来永劫続いていくよう、島人の知恵とHondaの技術が、島に新たな可能性を開いた。

※久松五勇士(ひさまつごゆうし)……1905年、ロシアのバルチック艦隊の海上通過を軍令部に知らせるため、宮古島からサバニ(小舟)で石垣島に渡った5人の若者。歴史に残る宮古島のヒーロー。



<お問い合わせ先>

本田技研工業株式会社
http://www.honda.co.jp/

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