つくろう、島の未来

2018年11月19日 月曜日

『海の彼方』
2016年/台湾・日本合作
監督:黄インイク
共同製作・配給:株式会社シグロ
DVD発売元:マクザム・シグロ 販売:マクザム
お問い合わせ先:03-3358-6241

歴史に翻弄されたある家族の物語 アイデンティティを巡る人生最後の里帰り

石垣島で小さな青果店を営む玉木(たまき)家は、かつて台湾から八重山諸島に移住した台湾移民の一族だ。一家の長老・玉代(たまよ)おばあの台湾名は、石玉花(せきぎょっか)。20歳のとき王木永(おうぼくえい)こと玉木真光(しんこう)さんと結婚し、二・二八事件後で混乱していた台湾から逃れるように石垣島へと渡った。新しい土地で生活を切り開くため、7人の子どもたちを育てながら、必死に汗水流して働き続けた。それから半世紀、孫やひ孫も生まれ一層賑やかになった大家族の中心には、いつも玉代おばあがいる。

本作は、そんな玉木家の日常から、玉代おばあの米寿の祝い、人生最後の台湾への里帰りまで……。 台湾移民として歴史に翻弄されながら生き抜いた一家の軌跡をたどっていく。

監督・黄(こう)インイクが本作で描き出したかったのは、台湾移民の歴史資料をたどるだけでは語れない、「感情的な家族のドキュメンタリー」だ。親戚が100人を超す大家族の玉木家であれば、異なる世代がそれぞれにアイデンティティを巡る問題とどう向き合ってきたのか、映し出すことができると考えた。1年に渡るフィールドワークを通して家族と親しくなっていく中で、徐々にカメラを回していったという。その親密さというべき“近さ”によって作品全体が心地よい空気感に包まれ、観ている私たちも家族の中に流れる時間そのものを共有できる。

印象的なのは、玉代おばあが青果店の居間でもやしのひげをちぎるシーンだ。慣れた手つきで作業をしながら、懐かしそうに思い出話をする姿は、長年繰り返されてきた日常の一幕だろうが、家族が共に過ごしてきた濃密な時間と記憶に触れたような気にさせてくれる。今は当たり前でも、いつかは当たり前ではなくなる瞬間。そんなかけがえのない、愛おしい時間が作品中に散りばめられている。

80年を超えても探し続ける自らのアイデンティティ。玉代おばあは子どもたちに、「どこに逃げても、あなたが台湾人であることは何も変わらない」と教え続けた。自らが“台湾人”だということを意識しながら、力強く生き抜いた一家。その強さは、家族の絆が生み出したものであり、これから何世代にも渡って受け継がれていくものだろう。台湾人とは、日本人とは何か。自らのアイデンティティに向き合わされる作品だ。

(文・北坊あいり)

離島経済新聞 目次

島Books&Culture

関連する記事

ritokei特集