つくろう、島の未来

2024年03月28日 木曜日

つくろう、島の未来

奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)・大和村(やまとそん)の国直(くになお)集落で、若手住民が中心となりNPO法人を組織。集落住民それぞれの得意分野を生かした体験交流事業や、集落の写真コンテストを開催するなど、地域の魅力を発信している。先人から受け継いだ精神を大切に、地域住民の幸せやコミュニティを守りながら事業を運営する「NPO法人TAMASU(たます)」が目指すものは。代表の中村修さんに話を聞いた。(写真提供:NPO法人TAMASU)
※この記事は、『季刊ritokei』23号(2018年2月下旬発行)「注目の島づくり特集」連動記事です。

泳ぎながら魚を釣りあげる「プカプカ泳ぎ釣り」ツアー

受け継いだ地域の宝を伝え、分かち合いたい

奄美大島・大和村の国直は、島中心部の名瀬(なぜ)から車で30分ほどの島の西岸に位置し、国定公園の宮古崎(みやこざき)や集落に伸びるフクギ並木など、美しい自然に恵まれた、静かな集落だ。

東シナ海に面した国直海岸は、浜に自生するアダン林が昔から防砂・暴風の役割を果たし、オカヤドカリなど生き物の住処となってきた。人工物の一切ない海に夕日が沈み、夏になると多数のウミガメが産卵に訪れる。

現在、国直には117名66世帯(※1)が暮らす。大和村の人口が約50年前の4,125人(※2)から1,524人(※1)と大きく減る中で、国直は100名強を維持し、人口減少に歯止めがかかっている。住民の平均年齢も、村平均の53.89歳に比べて国直は48歳(※3)と5歳以上若く、島内でも青壮年団の活動が活発な地域として知られている。

※1 ……2017年12月28日現在 大和村統計
※2 ……昭和40年国勢調査
※3 ……平成27年国勢調査 小地域集計(総務省統計局)

国直では、昔から男性は海に潜って魚やエビを獲り、女性たちは季節により海岸でアオサなどの海藻を摘み、貝やウニを採るなど、人々は海と共に生きてきた。子どもたちも、大人の手伝いをしながら集落の暮らしを学んだ。夕暮れ時になると老若男女が海岸に夕涼みに集い、異なる年代の交流が自然に交流しながら暮らしてきた。

その国直で、集落の青壮年団が中心となり「祖先から受け継いだ自然や文化、コミュニティなどの地域の宝を守り伝え、島に関わる全ての人が分かち合える環境を作ろう」と、2015年に「NPO法人TAMASU(たます)」が設立された。

国直では3軒の民宿が営まれており、観光客などの来訪者と気軽に交流する風土があった。のちにTAMASU代表となる中村修(おさむ)さんも、民宿を営む家で生まれ育った。

大和村の役場職員として働きながら、美しい自然や、自然と共生してきた島の文化を未来の島人たちへ伝承していきたいと考えていた中村さんは、集落にIターンやUターンする若い世代が増えて活気が生まれてきたことから、地域にある宝を活かした生業作りに取り組もうと決意。集落の青壮年団に協力を呼びかけ、20年勤めた役場を退職してNPO法人TAMASUを立ち上げた。

奄美大島には、かつて漁労や狩猟で得た獲物を神に捧げた後で人々に平等に分配する「たます分け」という習わしがあった。背景にあるのは、「自然の恵みは神からの授かりものであり、その恩恵は全員で等しく享受しなければならない」という世界観だ。法人名の「TAMASU」には『先人の「たます(分かち合い)」精神に学ぼう』との意志が込められているという。

住民の得意技や集落の暮らしを体験メニューに

TAMASUの取り組みのひとつに、観光客らを対象とした体験交流事業がある。住民がそれぞれの得意分野を生かして講師役を務め、「奄美大島国直集落まるごと体験交流」と名付けた約40の自然体験や文化体験のメニューを企画。観光客は住民と交流しながら集落の暮らしに密着した体験を楽しむことができる。

青壮年団や老人クラブなどのメンバーが集落を案内する「国直ブラ歩きツアー」など通年楽しめる体験をはじめ、春の浜辺でのアオサ獲りや夏のウニ獲りなど季節により参加できる体験や、四季折々に催される行事を体験できる体験なども用意され、ホームページから予約や問い合わせを受け付けている。

奄美大島では、アマミノクロウサギなど夜行性の希少生物を目当てに夜間車で森に入るナイトツアーが観光客の人気を集めているが、TAMASUのツアーでは、野生生物にストレスを与える光や騒音などを軽減するべく、自転車を利用して静かに観察する「ナイトサイクルツアー」を実施。環境への影響に配慮しながらツアーを運営している。

夕暮れ時の海岸で自然に始まる住民の集いを体験してもらおうと企画した「夕焼けビールツアー」は、参加費無料・予約不要。ビールなどの飲み物を持参して、誰でも参加できる。住民と挨拶を交わし、目の前で沈む夕日を眺めながらゆったりと語らう時間が評判となり、島内から足を運ぶ人も増えてきた。これらの体験交流事業で、初年度の2016年は約500人、2017年は5割増しの約750人が集落を訪れている。

参加無料・予約不要で誰でも参加できる「夕焼けビールツアー」

「自然や農の体験など、子供向けにつくった体験プログラムに親子で参加し、はまってしまう大人の方も。様々な世代の方に楽しんでいただいています」と中村さん。プログラムで講師を務めた住民たちにも変化があったという。

「始めは普段の生活通りマイペースに動いていたけど、だんだんおもてなしの気持ちが芽生えてきた。お客さんたちと集落のことや昔話をしたりするのが楽しみになってきているようです」。住民の得意技を活かした観光は、高齢者らの生きがいづくりにもなっている。

中村さんは「若者が島に帰って来られるよう生業づくりを進めるが、もっとも大切なのは地域のコミュニティ」だと語る。入込客数などの経済的な指標も参考にするが、数字に現れにくい住民幸福度に重きをおきながら慎重に取り組みたいという。

(記事後編に続く)


【関連サイト】

NPO法人TAMASU


国直集落丸ごと体験交流

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』23号 「島づくり」特集連動記事

現在、日本では「東京一極集中」「消滅可能性地域」「地方創生」といった言葉が踊り、離島地域に限らずさまざまな地域で振興策が促されている。そこで『季刊リトケイ』23号では島々の地域振興事情を特集。それぞれの島で人々が健やかに暮らしていくためには、どんな考えを持ち、何を実行すべきか。読者・有識者・島づくりの実践者の声をもとに、愛する島の未来を築く島づくりのヒントを集めました。特集記事はじめ紙面にて紹介した記事のノーカット版等を、有人離島専門ウェブメディア『離島経済新聞』にて公開しています。

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