つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

スマホやパソコンなど誰でも簡単に使えるインターネットが身近になった今、ICTという「情報と通信の技術」があることで、島の暮らしがどのように変わるのか? ICTをフル活用しながら奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)と本土の2拠点生活を行う、勝眞一郎教授の連載コラム、最終回です。

島の暮らしとICT_01

仕事は暮らしを支える柱である

島の暮らしをテーマにしてきた連載コラムも今回が最終回。都会で暮らしていても、島で暮らしていても、お金をもらおうともらうまいと、仕事は暮らしの柱です。そこで今回は、島の暮らしを支える仕事とICTの関係について考えてみたいと思います。

仕事をするスタイルの変化

わたしたちは、産業革命期の工場における物資の大量生産が始まって以来、つい最近まで企業に勤めることが主な仕事のスタイルだと考えてきました。就活と称して、仕事そのものよりも企業の採用情報を研究し、数十社を受け、内定の知らせを待ち、不安な日々を過ごすことが当たり前のように感じていました。

 

歴史を見てもわかるように、多くの人が企業に雇われて働く就労構造は、きわめて近代のもの、長い人類の歴史からすると、わずかな期間です。

機械化はどんどん進み、工場労働の多くはロボットに置き換わってきました。オフィスでの仕事もICTの進展により自動化され、不要な業務も多くなってきました。

一昔前のように、「どこかにみんなが一斉に集まって作業をして終わったら帰る」というスタイルだけでなく、「同じ空間にいなくてもプロジェクトの目的のため、期限までに成果を上げれば良い」というスタイルも増えてきています。

島の暮らしとICT_02

高度経済成長期から最近まで、企業は「効率化」を求め、コストを下げるため「輸送の利便性」や「用地」を求め、都市や近郊に集中していきました。

ところがインターネットのインフラや、それに関連する情報コミュニケーションが発達した今、業種によっては都市や近郊に束縛される必要が少なくなっています。

新しい時代に求められるのは「貴重で価値が高いと言われるコト(体験・感動)の現場」です。そこで、仕事の場所として「都市や近郊」だけでなく「離島を含む田舎」が注目を浴びつつあるのです。

ICTが仕事の環境を変えていく

ICTはこうした変化を今後もさらに加速させます。

例えば、私が勤めるサイバー大学の場合、授業の収録や研究会、教授会などは都内で行ないますが、普段の授業運営はインターネット上で行ないます。ネットがつながっていれば、どこからでも学生の質問に答えることができ、レポート評価もできます。これは、サイバー大学が通信制の4年制大学だからです。

また、夜間でも学生の質問に答えられる一方で、奄美群島での仕事や地方の業務コンサルティングが同時にできるのは、通学制の大学ならでは。通学制の大学に月曜から金曜まで出勤していれば、他の仕事で出張するのにも限界があります。他方学生の方も、受けたい時間に場所にとらわれず受講できるだけでなく、教員の個別指導を受けられたり、提出後にレスポンスよく評価が返ってくるなどメリットがあります。

大学の仕事に限らず、多くの仕事には、データが必要です。顧客の嗜好を探るマーケティング、リアルタイムなモノの動きをあらゆるものをネットにつなげるIoT(Internet of Things)で蓄積される大量のデータ(ビッグデータ)は、今後様々な産業の基礎データになると推測されます。文字、映像、音声など多くの情報が解析され、活用が進み、それらはネットさえつながっていれば地方にいても利用が可能なのです。

また、仕事を行なう上では、コミュニケーションが重要ですが、遠隔地を結ぶウェブ会議は、資料の共有やリアルタイムでの議事録作成など離れていることを感じさせません。むしろ、ウェブ会議を活用すれば、集まるための時間とコストを省くことができます。

ICTに使われず、むしろ使い倒すことが島で仕事をする秘訣

これからの社会で注目されているICTのキーワードは、人工知能、ビッグデータ、ロボットです。人工知能は、パターンを認識し対応を自動化するので、たとえば島関係の本を読んでいたら、島旅の予約の提案をしてくれたり、読んでいた島にまつわる音楽を流してくれたり……といったことが可能になります。グルメな人には近所にある島料理のお店のおススメ、料理好きの人には島の伝統料理のレシピ紹介など、より個別対応での利用が進むと考えられています(日本でも間もなく人工知能を活用したスピーカー型音声アシスタント「Amazon Echo」が発売されます)。

島の暮らしとICT_03

近年、子育て環境重視ということで移住先として島に注目するひとたちが増えています。人と人との助け合いがあたり前に残っている島では、島の大人みんなが子育てを手伝ってくれるような環境があり、都市にはない豊かな自然や文化があるというのが理由のようです。

しかし、豊かな暮らしを享受する一方で、やはり働かなくてはなりません。ICTの進展で、仕事は時間を刻んで使うことができるようになりました。複数の仕事を受け持つ「複業」や、一定期間は暮らしを優先する仕事のしかたも選択肢に加わりました。

これからも、ICTを使い倒すことで、島での豊かな暮らしの可能性が広がることでしょう。限られた選択肢の中から進路を一つ選ぶのでなく、一人ひとりが自らの選択肢を複数つくる時代。そんな時代に島と言う場所での暮らしがあなたを待っています。

離島経済新聞 目次

【連載】島の暮らしとICT

ICT(Information and Communication Technology)技術で、島の暮らしはどう変化してきて、これからどう変化するのかを探る、サイバー大学教授の島×ICTコラム。

勝眞一郎(かつ・しんいちろう)
1964年生。奄美市名瀬出身。NPO法人離島経済新聞社理事、サイバー大学IT総合学部教授、奄美市産業創出プロデューサー、バローレ総合研究所代表。著書に『カレーで学ぶプロジェクトマネジメント』。現在は奄美大島と神奈川県の藤沢の二地域居住。

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